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平成27年7月号 139-2


アワビ

トコブシを使った刺身盛合わせは前ページのようになったが、いっぽう34gの小さなアワビを刺身に使った場合、

  アワビ刺身盛合わせ

アワビ入り刺身盛り合わせはこの画像のようになったのだが、これを見ただけではどちらがトコブシで、どっちがアワビなのか全く分からないと思う。
しかも、クロアワビであれば小さくても食べるとコリコリとした固い食感があるので、その歯触りでアワビだと直ぐに分かるのだが、これがアカと呼ばれるメガイアワビとなるとクロアワビほど固い食感はないことから、食べることでアワビだと納得してもらえるのかどうかも疑問である。

ということは、築地市場で月間平均卸価格7,598円/1kgもするアワビを無理して刺身に使うのではなく、月間平均卸価格3,285円/1kgのトコブシでも充分なのではないかということになるのだ。

誤解してほしくないのは、トコブシをアワビと称して使ったらどうかなんて言っているのではない。
そんな詐欺紛いのことを勧めているのではなく、あの「石のように固いコリコリしたクロアワビの食感」さえ求めなければ、トコブシでもメガイアワビやマダカアワビでも良いのではないかということである。
(ちなみにエゾアワビはクロアワビ以上に身質は固いらしく、超希少な存在のエゾアワビは値段も平気で10,000円/kgを超えることもあるようで、価格はクロアワビを超えるのが普通とのことだけど、残念なことに筆者の口には入ったことがない・・・)


トコブシを含むアワビの仲間は世界中でおよそ100種類ほどあるとのことで、日本におけるアワビ類の漁獲量は1960年から1970年代にかけては5,000 〜 6,000d台だった。しかし近年は減産が目立ち始め1990年代以降は2,000dを下回るようになり、直近の平成25年度の漁業・養殖業生産統計によると、全国のアワビ類生産量は合計1,395dとなっており、最盛期から見ればほぼ1/4の生産量となっている。

静岡県水産技術研究所の資料によると、

過去 50年間(1961〜 2010年)のアワビ類の国別の漁獲量の推移で、近年最も多いのはオーストラリアで、1960 年代後半から1970年代前半と1980年代には7,000 〜 8,000dを記録していた。その後は減少したがここ20年間は5,000d以上を維持している。2番目に多いのか日本で1960 年代後半には6,000d以上漁獲していたがその後減少し、近年は2,000d程度となり、2010年からは1,500d以下となっている。3番目に多いのかニュージーランドで1,000d程度。メキシコは1960年代には7,000 〜 8,000dだったが、近年は1,000d以下に大きく減少している。
漁獲の対象となる主な種類は、オーストラリアではアカアワビ(Blacklip abalone;学名Haliotis rubra)やウスヒラアワビ(Greenlip abalone;学名 Haliotis laevigata)、日本ではエゾアワビやクロアワビ、メガイアワビ、トコブシなどで、ニュージーランドではヘリトリアワビ(Blackfoot Paua;学名Haliotis iris)やサザナミトコブシ(Yellowfoot Paua;学名 Haliotis australis) などである。
              (静岡県水産技術研究所資料より一部抜粋)

 

このように減少している漁獲量を補うために、現在多くの国で養殖が盛んに行われるようになり、ハワイではエゾアワビ,台湾はトコブシ,また南アフリカ、オーストラリア、チリなどでもアワビ類の養殖が行われていて、特にチリではロコ貝輸出の実績や鮭の海面養殖の技術を流用して、エゾアワビなどが養殖され日本にも輸入されているらしい。

また中国と韓国両国のアワビ類養殖生産は非常に盛んで、2010年データでは韓国は6,228d、中国は桁違いの56,511d(中国の公表データの信憑性真偽判断は読者にお任せする)となっている。養殖されている主な種類は両国ともエゾアワビで、韓国からは年間約1,000トンが日本に輸入され、中国からも輸入されているがそれは数100トン程度であり、アワビを珍重するお国柄からかその多くが中国の国内で主に消費されているようである。

日本ではアワビ種苗の大量生産技術が確立しており、種苗放流が盛んに行われるようになっていて、種類別に見るとエゾアワビが最も多く約60%、クロアワビが約30%ほどとなっていて、トコブシは全体の3%程度でしかなく、やはり市場価格の高いものほど放流事業も意欲が湧くようである。


さて、今月号のテーマであるトコブシから、いつの間にかアワビ類全般のことへと話が移ってしまったが、基本的にトコブシは刺身材料として安く使えること以外の点ではアワビと同じなので、以下にアワビを使った調理工程をトコブシと見なして紹介することにしよう。

以下の画像はアワビの中でも高価なクロアワビを使った解体と刺身商品化の工程である。

クロアワビの解体と刺身工程
1,クロアワビの200gものを準備する 8,手刀をしたら内臓とハカマは殻に付いたままになる 15、貝柱を切り離した状態
2,アワビ刺身の基本は動き回る活貝であること 9,内臓とハカマを殻に残すように意識して身を外す 16、貝柱に互い違いの切り込みを入れる
3,足の筋肉の上にたっぷり塩を乗せる 10,ハカマが貝柱に残ると、外す時に貝柱を傷つけやすい 17、アコーディオン状に開く
4,筋肉の表面を塩洗いしてヌメリを取る 11,内臓のエラを切離す(エラは身に残ることがある) 18、周囲の固い部位も含め、全て等間隔で引き切りする
5,断面の形でL字の長い方から貝起こしを入れる 12、内臓を可食部として商品に入れる時は砂袋を切り離す 19、引き切りした身を包丁で将棋倒しする
6,内臓部を上の位置にして殻から身を傾ける 13,肝(生殖腺)、砂袋、エラ、を分離した内臓部分 20、等間隔に全体を横に拡げる
7,傾けた身の上に軽く手刀をする 14,貝柱をさざ波切りで切り離す 21、クロアワビ刺身(肝と呼ばれる生殖腺は緑が雌、白が雄)
アワビ入り活貝刺身盛合わせ

 

このように活きたアワビを使って刺身商品をつくったが、当然のことながらアワビの200cものであれば原価は最低でも1ケ1,000円以上は覚悟しなければならないので、売価は自ずと高いものになってくるのは避けようもない。
アワビを丸々1ケ使って、それだけで商品化しようとすると上の「画像21」のようになって、売価の割にはボリュームのない、少しコストパフォーマンスの低いものになってしまう。

アワビを使ってよりコストパフォーマンスを高めようと思うならば、例えば上の画像の「アワビ入り活貝刺身盛合わせ」のようにサザエや赤貝などアワビより価格が安い材料と組み合わせて、少しでもボリュームを感じさせるようにすれば多少は割高感を薄めることは可能である。

しかしそれでもアワビが1ケ丸々入っているのではどうしても高い売価になることは避けられないので、以下のような工夫すると、商品コスト的には随分低減することになる。

  

この商品のポイントはアワビを刺身にする方法を引き造りではなく薄造りにして、アワビは1/2だけで盛り付けるので原価は半分になるというわけだ。
こうすると商品売価も1,000円を超えないレベルが実現する可能性も出てくるのだ。
ただし、アワビの貝殻は一つしかないので片方の商品には殻無しとなるので、一つの商品は殻がない分少し見劣りのする感じになってしまうのは仕方ない。


それにしてもアワビというのは、築地市場の2015年5月度の月間平均卸価格は7,598円/1kgという数字が示すように、取引相場は高嶺の花的な頭抜けた価格の高級品であるが、それでもアワビが大きく値崩れしたというのはあまり聞いたことがない。
これは常に高値安定の高原相場を維持していても、アワビというのは国内だけでなく国外からも一定の高い需要があり続けるという大きな強みがあるからであろう。

アワビは今だけではなく古代の昔から「長寿をもたらす貴重な高級品」として扱われてきた代表的な食物であり、贈答などに使う「熨し袋」の「ノシ」という言葉は「伸し(のし)アワビ」を作る過程で薄く伸ばすことからきているということだ。
これは昔の日本でアワビを朝廷などへ献上品として遠隔の地に届けるにはアワビを干物にする必要があり、肉の厚いアワビを完全に乾かすために、リンゴの皮をむくように長く切ってから乾かす方法によって「ノシアワビ」にしていたとのことである。
最初の頃はもちろん食物として使われていたのだが、その内に贈答品の意味合が強くなってお祝いの贈答にこれが添えられるようになり、それが次第に現在のような紙などで作られた形式的なものへと簡略化されていったようである。

日本ではそのようなアワビにまつわる歴史があり、いっぽう中国では日本から「乾鮑」が中国へ輸出されるようになって以来、明朝から清朝の時代にかけて「長寿をもたらす食物」として、宮廷などの高い地位の人々の間に広く浸透するようになったようだが、中国の国内でのアワビ魚獲自体は非常に少なく大半を日本から輸入に頼る必要があった。

その乾鮑とは大型のメガイアワビやマダカアワビを使って作られ赤褐色の飴のようにつやがあり硬いのが特徴ということだ。
乾鮑の作り方は、殻から身を外して塩を擦り付け、それから4〜5日間水につけて洗浄し、その後アワビを煮てから天日で約40〜50日間水分がなくなるまで乾燥させるとのことであり、長い日数と多数の人員投入の工程を経たコストのかかる高級品なのだ。

このようにアワビというのは、仮に活きたアワビの状態で売れなくても、それは「乾鮑」という干しアワビにすれば、長期間の保存が利くだけでなく、中華料理の高級素材として世界中どこにでも輸出できるという強みがあることから、別に無理に安くしなくても売る方法はいくらでもあるという絶対的な強さが、アワビが常に高い価格を安定して維持している理由なのであろう。

この先中国が日本の乾鮑などのアワビ商品をまったく一つのアワビも輸入しなくなるといったような、よほど大きな国際的なニーズの環境変化でもない限り、今後もアワビは常に「高嶺の花」であり続けるはずであり、超高級の魚貝類として君臨し続けるであろうことは間違いない。

そんなアワビととても良く似ている活きたトコブシが、1ケ100円前後の価格で手に入るのであれば、これを見逃す手は無いのではないだろうか。

マイナーな存在のトコブシにも少しは目を向けてみてはどうだろう。



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更新日時 平成27年 7月1日